2011年8月5日金曜日

親業

私は息子が1歳ぐらいのとき、どう育てていくかで考え込んで、色々と本を読みあさった。どうしてもピンと来るものがなかったが、【親業】という本を読んで、これだと思った。それ以来、親業を曲りなりに実践しようとしていて、その究極の姿がアンスクールになったと言えるかもしれない。

簡単にいえば親が子どもにどう接するべきかが、精神論と実践において丁寧かつ分かりやすく指し示めされている。私はこれで穏やかで、建設的な家庭を作って来ることができたと信じている。

今回はこの「親業」を紹介したい。



大人になり子どもが生まれれば親にはなるが、普通、親になる勉強をした覚えはないだろう。少なくても私はなかった。にもかかわらず突然親になった者はどうしていいかわからないまま、育児の日常に追われてしまう。その結果、自分の親の言動をそのまままねて、自分の子どもを育てることになる。

昔は大家族だったから、子守をしながら育った子供もいたが、核家族化が進むと自分が受けた育児以外をほとんど知らない。だから、親に叩かれて育った者は、そのまま子どもを叩いてしまう。親に無視された者は、子どもを無視してしまう。親に勉強を迫られた者は、自分の子どもを勉強に追いたててしまう。これを育児の連鎖という。

これを解消するためには学校で育児の授業があればいいと思うが、生活や家庭科はあってもその中で育児を教えていると言う話は聞いたことがない。

トマス・ゴードンはこれはおかしいと気付き、1963年親業を始めた。アメリカでは親業をParent Effectiveness Training (PET)といい、「親としての役割を効果的に果たす訓練」という意味である。

13歳の頭が良くて、かわいい女の子が二人の女友達と一緒に家出した後で話した言葉を引用したい。
「本当に小さなことについて、何にも話せないようになったんです・・・・・。学校の勉強のこととか・・・・。テストがよくできなかったような気がして、母にできなかったって言うでしょ。そしたら、"どうしてできないのッ”ていって私を叱るんです。だから、私は本当のことを言わないようにしたんです。嘘をつくのは好きじゃないけど、嘘をつくようになって、だんだん嘘をついても平気になりました・・・・。とうとう、なんだか関係ない二人が話し合っているみたいで----だって二人とも、お互いに"本当"の考えや本当の気持ちを見せないようになってしまったんです。」
こういった例はそんなに珍しくない。その結果、無数の親が子どもが人生で出会う問題の解決に手を貸してあげる機会を失ってしまっている。

受容
ゴードンは次のように語っている。
自分が今のままで相手に本当に受容されていると感じると、人はそこから動き出し自由を手にし、思いのままに自分の変身・成長をはかり、能力を発揮する方法を考えられるようになる。
ほとんどの親はおもに「非受容」という方法で養育にあたり、それが子どもにとって最善だと信じてきた。評価、批判、説教、教訓、注意、脅し、命令-子どもに対し受け入れないというメッセージでいっぱいである。愚図だ、間抜けだ、嘘つきだと子どもに吐きかけると、子どもはその通りになり、大人になってから苦しむことになる。

子どもが親に語りかける場面。
「友達のAちゃんが嫌い」 

○非受容の場合
「そういう言い方をするんじゃない」(命令)
「Aちゃんを嫌うと、Aちゃんからも嫌われるわよ」(注意)
「友だちとは仲良くするもんだよ」(説教)
「Aちゃんに家に来てもらって、一緒に遊んだら」(忠告)
「Aちゃんに嫌われるようなことしたんじゃない」(講義)
「その考えは間違えている」(非難)
「お前の言うとおりだ」(同意)
「わかったよ、ベイビー」(小馬鹿にする)
「Aちゃんが意地悪だから、嫌ってんだろ」(分析)
「明日になれば気が変わるよ」(激励)
「いつからそう思うようになったの」(質問)
「同じこと前にも言ってたじゃん」(中止)

これら"お決まりの12の型"はごく普通の親の反応であるが、この型の人たちは自分を変えるのが怖いので、子どもを変えようとしている。
でも、この反応を返された子どもは「僕の気持なんかどうでもいいんだ、僕のことなんか真剣に考えてくれないんだ」と受け取る。

○心を開く言葉
「そうか 」
「それはまあ」
「言いたいことを簡単に言ってごらん、聞いてあげる」

これは自分の考え、判断、感情を相手に伝えないで、子どもには考え、判断、感情を表現するように促す方法である。この方法では子どもは受け入れてもらえたという気持ちになれる。 

○能動的な聞き方
「Aちゃんと会いたいくないの?」
「Aちゃんにがっかりしているのね」

この能動的聞き方は子どもの投げた信号に託された心のメッセージを読み取る。親が正確に理解していれば子どもの心を理解したことになる。それが誤解であれば、子どもは改めて、別の信号を送り、親の理解を訂正しようとするだろう。それを何度か繰り返せが親は子どもの心を正しく理解できるようになる。
人は何を本当に理解するかで、実際に自分が変化していくのだ。他の人の「経験に対して心を開いている」ということは自分自身の経験を解釈し直す可能性をもたらす。これは考えようでは恐ろしいことで、普通は変わることを恐れて受け入れないが、柔軟な人は変わることを恐れない。
柔軟な人を親に持つ子どもは父親、母親が変わることを恐れずに、人間的であろうとするのに対し、よい反応をする。 

問題所有の原則

左の図は問題所有の原則を書いたものだ。
上は1)子どもに問題を所有して、親には問題を持たない
中は2)親にも子供にも問題を所有していない。
下は3)親に問題を持ち、子どもに問題を持たない時である。

1は子どもだけに問題を持つので、能動的な聞き方が役に立つ。
2の状態はトラブルにならない。
3は子どもはいいのだが、親が問題を持っているので、親としては子どもに止めさせたいと考えている状態である。つまり、親は1から2まで問題を持っていない。親にとって3だけが問題であり、これを子どもの言うままにするととりあえず問題は膨らまないが、だんだん親に手の負えない子供になってしまう可能性がある。この場合は次に述べる「勝負なし法」が役に立つ

例えば、忙しい時子どもが遊んでほしいと言ってはなれないとき、問題は親の側であり、子どもの側にはない。親は今手を離せないのにまとわりつかれて、困っているという問題を持っている。ことのとき親の対応
「向こうに言って、遊んでいなさい」(命令)
「止めないと怒るよ」(注意)
「人が忙しそうにしているときは、邪魔するものじゃないよ」(訓戒)
「外に行って遊べば」(忠告)
「いたずらしちゃだめよ」
「怒らせようとしているだけだ」(診断)
「行儀が悪い」(説教)

こういう風に言えば、子どもは自分の判断は重要でないと言うメッセージを受け取る。


このメッセージには主語として「あなた」が入っている。「お前、向こうに行って、遊べ」「お前が止めないと怒るよ」。すると子どもの中で発達しつつある、自分の考え方を破壊するような影響を与える。こういうメッセージによって子ども時代に形成された評価の低い自己概念は、生涯を通じてその子にハンディキャップを負わせる種をまいているようなものだ。


私メッセージ
とてもうるさいと感じたとき、「うるさいな」というのと「私は疲れている」というのでは子どもの受け取り方が違う。うるさいと言われた子どもは「自分が悪い子」と意識するが、疲れているんだと言われた子どもは「パパは疲れているんだ」と感じるだけで、自分に原因がないと考える。次に自分がどうふるまえばよかったかを考えるようになる。これを私メッセージまたはIメッセージという。

勝負なし法
親子で対立した時、勝つ、負ける以外に勝負なしにする方法がある。これを親業では「第3法」と言っている。

例えば雨が降っているところに出かけようとする子どもがいる。あなたはレインコートを着せたいが子どもは着たくないと言っている。これを親が勝とうとすれば、子どもは傷ついてしまう。親が負けると洋服が濡れて、クリーニング代がかかるとする。

子:レインコート着て行くのは嫌。
親:レインコート着るのが嫌なんだ。
子:そうよ、チェックだし。
親:チェックが嫌なんだ。
子:だって学校で誰も着ていないし、
親:人と違うものを着ているのが嫌なんだ。
子:そうよ。
親:でも、レインコートを着て行かないと、パパはクリーニングに出さないといけないし、風邪ひかれても困るし、いい方法ないかな。
子:【黙る】 じゃママのコート借りて行こうかな。
親:そのコートは無地かい。
子:そうよ、聞いてくる。
帰ってくる。
子:ママはいいって言ってた。
親:君はいいのかい。
子:もちろん。 じゃ行ってきまーす
親:行ってらっしゃい。

これが勝負なし法である。どちらも傷ついていない。要は話し合いでお互い妥協をするやり方で、民主主義の基本のようなものだと思う。親が厳しく子どもに命令し、従わせていれば、子どもは人のいいなりになるか、誰に対しても反抗的になるだろう。思春期の反抗期はそれが原因だと親業は言う。


この本は子どもの躾ではなく、親の躾を説いている。子どもを変えるのではない、親が変われば子どもは自然に穏やかで、頭のいい子になる。さらに、子どもだけでなく、大人同士の間でも豊かで自然な交流が生まれるようになる。

私もこの親業の考え方で子どもを育ててきたが、改めて読むとちょっと間違えて理解していたところがあることに気付いた。なかなか、奥が深い。

親業訓練協会
日本:http://www.oyagyo.or.jp/
アメリカ:http://www.gordontraining.com/

12 件のコメント:

Wisconsin Vegan Abolitionists さんのコメント...

>子どもを変えるのではない、親が変われば子どもは自然に穏やかで、頭のいい子になる。

とうはんさんのおこさん、とっても穏やかな笑顔ですよね。私も親業しっかり学びます。
自分に余裕がないとき、子供の意見を軽くあしらったりしている気がします。
公園でお友達と待ち合わせした時、「ぐずぐずしないで、お友達帰っちゃうよ。」とか、傷つく言葉を言ってしまったり。反省。もうすぐ10歳ですが今からでも私が変われば変わりますかね?英語と日本語があるのはありがたいです。
とうはんさんの記事は、とっても勉強になります。ありがとうございます。

Azumi さんのコメント...

あ~耳が痛いです。笑
頭では分かってはいても、男の子3人の相手しきれなくてひとりひとりじっくりと話してあげられてなくて反省です。。
 この本是非読もうと思います。主人にも英語版をプレゼントして一緒に理解して子育て頑張ります。とうはん、ありがとうございます。

chibimikan71 さんのコメント...

私も寝不足や、疲れていたりすると、子供の話に耳を傾けることがおろそかになって、返事もてきとうにしてしまったりします。あ~、本当に耳が痛いですねえ。

親業は読んだことなかったです。本の話だけは、勇気づけ法を2年前くらいに学んだときに、インストラクターの方から聞いたことがあります。日本だと、STEPとかSMILEとか3種類ぐらいの名前で行われていますよね?Iメッセージとか、反映的な聞き方とか、ロールプレイも混ぜていろいろやって、ずいぶんと子供の気持ちを体験したはずなのに、やはり使った事のない思考回路でさらにしゃべり方まで変えるにはリハビリのようなトレーニングが必要みたいです。なかなか前に進みません(汗)

とうはん さんのコメント...

銀龍さん、Azumiさん、chibimika71さんコメントありがとうございます。

銀龍さん、親業では子どもの年齢について、親子関係があまりにこじれていると修正するのは簡単ではないと書いていますが、銀龍さんの場合は全く問題ないと思います。

この本私は5,6年前に読んでそれからあまり読んでいなかったんですね。銀龍さんにお勧めしてから再度読み直してみたら、いやー冷汗一斗です。忙しい時まとわりついてきたら、「うるさいからあっち行って遊んで」とか、聞かれても「知らない」と冷たく返したりで、ちっとも実践していないことに気付きました。読むとその通りだと納得するのですが、実践するのは本当に難しいと思います。

私は基本的に、子どもが自分の親友だったとしても同じ口を聴くだろうかと考えてから言うようにしていますが

それでも、つい・・・。 私もリハビリをしたほうがいいと思います

Mikan さんのコメント...

難しい・・・

私メッセージは、何とか実践できそうです。

私には勝負なし法というのが一番難しそうです。
絶対に勝ちたくなっちゃう。
でも思春期の反抗期の事を考えると、今から練習しておかないとダメですね。

親業、親の躾け。何だか読むのが怖いです。

とうはん さんのコメント...

私メッセージだけでも、子どもがリラックスしているのが分かります。
かく言う私も実際にはできていません。でも読んでいないより、読んだ方が、少なくても言ってしまってから、「いけね」と思うだけでも、徐々に変わっていく自分と息子を感じることができます。
子どもは生意気になって、このやろうと思うこともありますが、とても仲のいい友達とやり合っているようで楽しいですね。

Wisconsin Vegan Abolitionists さんのコメント...

>でも読んでいないより、読んだ方が、少なくても言ってしまってから、「いけね」と思うだけでも、徐々に変わっていく自分と息子を感じることができます

そうか~、私もその方法でいきます。
私もMikanちゃんみたいに、負けるもんかって思っちゃうんです。叱っているよりも喧嘩。
Azumiさんも、3人のお子さんとじっくり話すのって大変そうですね。近所の友達が3兄弟をホームスクールで育てていますが、とっても忙しそうですもん。
Chibimikanさんの勇気付け方というのも興味あります。日本で講座を受けられたのかしら?
落ち込むとき、「昔だったら、子育ては地域や祖母祖父みんなでするものだったのに、夫としかも海外でぽつんと子育てしている~寂しい。」と思っちゃうときあるんですよ。(友達がたくさんいて助け合いしてるんですけどね)
だから、このブログでみなさんと日本語でお話できてとってもラッキーだと思っています。とうはんさんのおかげです。

そうそう、夫は発達心理学を勉強し子供のカウンセリングをしていたこともあるんですよ。穏やかで職場ではZenマスターと呼ばれているんです。それでも、息子にはカ~~っとくることがあります。2人とも満点パパ&ママには、程遠いんですが、意識するだけでもほんの少し変わる・・気がします。

chibimikan71 さんのコメント...

>私は基本的に、子どもが自分の親友だったとしても同じ口を聴くだろうかと考えてから言うようにしていますが

そうなんですよ、まったく同じことをSTEP受けているときのインストラクターがおっしゃっていました。それでも難しいので、イライラが爆発してしまったときには”やっちまったリスト"というのを作って、それを勉強会に持参してみんなの前で事例をシェアしたりして、自分ならどう対処するか考えたりしていました。

銀龍さん、

勇気づけは日本にいるときに、近所の仲良しママ5人で講師をよんで、自宅開催という形をとりました。お互いの子供を知っているし、どういうことが今悩みになっているかなども毎週シェアできてものすごく良かったです。お互いの家を行き来できる関係だったので、普段の子育てにも実践できて勉強になりましたよ。こちらは、私の師匠ではないのですが、勇気づけについて分かりやすくまとめてあったのでよろしければごらんくださいね。
http://www.locoms.com/sf-intro.htm

私はとうはんさんが以前に書かれた記事をよんで、"怒らない”を実践しようと決めてから、3日間ぐらいは良い感じでした。でもやはり週末に疲れがたまったりすると、怒るというよりも忍耐力がなくなってきて、イラついてしまいました・・・。
まあ、何かあっても「本当に怒る必要があること??」と自分に問いかけてみると、ほとんどの事が実際は怒る必要のないことだ、ということに気がついたのはとても良いことでした。

まだまだ親になって5年弱ですからね!私も学び中です^^(これもSTEPの師匠の言葉だったりします)

Wisconsin Vegan Abolitionists さんのコメント...

Chibimikanさんありがとうございます。
やっちまったリストですか。私、何枚紙があっても足りないかも。自分自身に余裕がないのかもしれません。周りのホームスクールの親たちは、しっかり大人の時間を楽しんでいます。私は、これといった趣味がないので、ピアノに座って歌を歌うとすっきりするんですが、生活感を取り除いてLove songなんかを歌っていると、横で息子に替え歌にされたり。
アヤMikan家は、ご夫婦でデートの時間が楽しめるようなので、うらやましいです。Chibimikanさん、とうはんさん、Azumiさんは、どうやってリフレッシュしてますか?
親業、勇気付け、みなさんお勉強なさっているので尊敬!

とうはん さんのコメント...

chibimikan71さん
勇気づけ、HPを覗いてみました。とても納得できることが書かれていますね。
褒め方の件について、私も難しいと思います。以前他のところで聞いた話でも、"頭がいい"と褒めると成長しなくなる、努力を誉めたほうがいいと言っていました。うちの子に、頭いいねとか、天才だねとか言ってしまって、そのあと、新しいことに挑戦しようとしないことがありました。でもこれって、高度な頭の体操が必要ですね。
chibimikanさん、もう少し詳しいことを知りたいので、時間があるときでも、勇気づけの件で投稿して頂けると嬉しいですね。

銀龍さん
ピアノで弾き語りができるのは素晴らしい。息子さんが脇で替え歌を歌っている姿は和やかなご家庭の雰囲気が伝わってきます。

リフレッシュですか?二人でデートなんか、もう何年もしたことないですね。大工仕事や本を読んだり、はんだごてを持つぐらいですか。うーん、もうちょっと明るいことをやってみたいですね。

Wisconsin Vegan Abolitionists さんのコメント...

>"頭がいい"と褒めると成長しなくなる、努力を誉めたほうがいいと言っていました。

私の唄のお師匠が同じことを言っていましたが、つい私も息子に「頭いいね~。天才だね。」と言ってしまいます。言われるとうれしそうなので余計に。
とうはんさんは、色々お勉強なさっていてすごいなと感心します。
私も、勇気づけをChibimikanさんにもっと詳しく教えていただきたい。

>はんだごてを持つぐらいですか
思いっきり笑いました。

とうはん さんのコメント...

「天才だね―」はつい言ってしまいますね。そのたびに「いけね」と思うのですが、頭使わなくても言えて楽なんでしょうね。子どもと一緒にいると頭を使わないといけないのでぼけ防止になります。

半田ごては歳のせいかよく見えなくて、半田の代わりに指を『ジュ』とやって悲鳴を上げています。後で肉の焼ける香ばしいにおいがします。